印刷工場の化学物質管理チェックリスト10項目【2026年版】
訂正(2026-09-04): 本記事は従来「IPAは現行では対象外で、2027年4月1日に義務対象へ追加される」と記載していましたが、厚生労働省の対象物質一覧の再確認により誤りと判明したため訂正しました。IPAは収載名「プロピルアルコール」(アルキル基の異性体を含む)として現行から義務対象です。(2027年追加の物質数も「約1,550物質」→「151物質」に訂正)
印刷業には、日本の化学物質管理の方向を変えた事案があります。2012年に明らかになった、校正印刷事業場での胆管がん多発です。原因とされた洗浄剤成分(1,2-ジクロロプロパン)は、当時の特化則・有機則の規制対象外でした。「リストにある物質だけ管理していても働く人を守れない」。現在の自律的管理(SDS×リスクアセスメント)への転換は、この事案が契機のひとつになっています。
だからこそ、2026年4月施行の改正を含む現在の枠組みでは、有機則・特化則を守っていることと、自律的管理の義務を果たしていることは別の要求です。この記事は、印刷工場(オフセット・グラビア・フレキソ・製本加工)が工場全体で確認すべきことを10項目にまとめたチェックリストです。洗浄剤の該否確認は洗浄剤ガイド、製本接着剤は接着剤ガイドに詳細があります。
※お急ぎの方へ:SDS(PDF)が手元にあれば、成分の照合は無料診断で自動化できます(登録不要・その場で結果)。
チェックリスト(10項目)
台帳と該否確認
□ 1. 台帳が「インキ以外」も網羅しているか
インキ本体だけの台帳では足りません。湿し水原液(エッチ液)・ブランケット/ローラー洗浄剤・版洗浄剤・ラミネート接着剤・製本用ホットメルト/酢ビ糊・OPニスまで、工場に存在する化学品全部が対象です。胆管がん事案の原因も、インキではなく洗浄剤でした。洗浄剤をポリ容器に小分けして各機に置いている現場は、小分け容器の表示義務もあわせて確認してください。
□ 2. 全品番の最新版SDSが揃っているか
発行日が2024年より前のSDSは、追加物質が反映されていない可能性が高いです。品番ごとに購入先へ最新版を請求してください(入手方法と請求文テンプレ)。
□ 3. 成分×CAS番号で義務対象リストと照合済みか
照合はSDSの「3. 組成及び成分情報」のCAS番号ベースで(3項の読み方)。印刷工程でよく見る対象成分:
お手元のSDSの「3. 組成及び成分情報」と、この表を見比べてください。物質名またはCAS番号が一致し、含有量が裾切値以上なら、義務対象の可能性が高い成分です。
| 物質名 | CAS番号 | SDS裾切値 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| トルエン | 108-88-3 | 0.1% | 溶剤系インキ(グラビア・フレキソ)・洗浄。有機則第2種との二重管理 |
| 酢酸エチル | 141-78-6 | 1% | グラビア・フレキソインキ、ラミネート接着剤の主溶剤 |
| MEK | 78-93-3 | 1% | グラビアインキ・洗浄兼用の速乾溶剤 |
| キシレン | 複数 | 0.1% | 洗浄剤・一部インキ。エチルベンゼン併含に注意 |
| ミネラルスピリット | 64742-47-8 | 1% | ブランケット・ローラー洗浄剤(洗い油)の基材 |
| 1,2-ジクロロプロパン | 78-87-5 | 0.1% | 過去のブランケット洗浄剤。胆管がん事案の原因物質。旧在庫・古い製品に注意 |
| ジクロロメタン | 75-09-2 | 0.1% | 洗浄剤・インキ落とし。特化則(特別有機溶剤)との二重管理 |
| 酢酸ビニル | 108-05-4 | 0.1% | 製本の酢ビ系エマルション接着剤。「水性=対象外」ではない |
| MDI | 複数 | 0.1% | PUR系ホットメルト(無線綴じ製本)。加熱で蒸気ばく露も |
| イソプロピルアルコール(IPA) | 67-63-0 | 0.1% | 湿し水原液(エッチ液)・洗浄剤。収載名は「プロピルアルコール」 |
イソプロピルアルコール(IPA、CAS 67-63-0)は、一覧に「イソプロピルアルコール」の名前では載っていません。収載名「プロピルアルコール」(CAS RN欄は 71-23-8, 67-63-0)の備考「アルキル基の異性体を含む」により現行から義務対象で、SDS交付等に係る裾切値は0.1%です。慣用名で検索して出ないことは、対象外の根拠になりません。湿し水原液・IPA系洗浄剤で使用中なら、台帳と該否確認の対象です。なお有機則(第2種有機溶剤等)でも従来から規制対象で、二重の管理になります。
UVインキ・UVニスの主成分(アクリレート系モノマー等)は製品により該否が分かれます。皮膚感作性の強い成分が多いため、UV化済みの工場でもSDSの成分確認は省略しないでください。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付等の義務対象物質一覧」(2025年4月1日現在)。裾切値は「SDS交付等に係る裾切値」。※成分例は一般的な傾向であり、該否は個々のSDSの成分・含有量で確認する必要があります。
この表にない成分はリスクアセスメント対象物質一覧(検索可)で調べられます。SDS(PDF)をアップすれば、全リストとの照合を自動で行うこともできます。
PDFをドラッグ&ドロップするだけ。登録不要で試せます(無料は月3件まで)。
自社で判断しづらいSDSは、先行期間(10月31日まで)は3製品まで無料でこちらで確認します。info@sdscan.jpにPDFを添付してお送りください(PDF化がむずかしい場合は製品名を一言でも構いません)。この確認は判定と同じ情報提供であり、法令適合の保証や法的助言ではありません。
□ 4. 照合結果に「確認日とリストの版」を記録しているか
対象物質リストは毎年のように更新され、2027年4月にはさらに追加されます。「いつのリストで確認したか」の記録がないと、更新のたびにゼロからやり直しになります。全物質は検索できる一覧で確認できます。
リスクアセスメントと措置
□ 5. 該当品のリスクアセスメントを実施・記録しているか
インキ供給・調肉(インキの混合・調整)、印刷機のローラー/ブランケット洗浄、グラビア・フレキソの乾燥工程、製本のホットメルト加熱など作業単位でばく露を見積もります。手拭き洗浄の直接接触と、乾燥機まわりの溶剤蒸気が見落としの定番です。厚生労働省の簡易ツール(CREATE-SIMPLE)が使え、記録の様式はリスクアセスメント記録の書き方にテンプレがあります。
□ 6. 有機則・特化則との「二重管理」を整理できているか
トルエン等は有機則と新規制の両方の義務がかかります。ジクロロメタン・1,2-ジクロロプロパンは特化則(特別有機溶剤)の管理対象でもあります。「特化則・有機則で管理している=リスクアセスメント済み」ではありません。逆に、特別規則の対象外だった成分が義務対象リストに入っているケースも頻発します。
□ 7. 濃度基準値物質を確認したか
対象物質の一部には屋内作業のばく露濃度基準が設定されています。有機則の管理濃度とは別の値です。
□ 8. 洗浄・拭き取り作業の皮膚ばく露対策があるか
ウエスでのブランケット拭き・ローラー洗浄は、溶剤に直接触れる時間が長い作業です。トルエン・キシレンは皮膚等障害化学物質に該当し、不浸透性の保護具の使用義務がかかります。「軍手で拭いている」現場は真っ先に見直し対象です。
体制
□ 9. 化学物質管理者・保護具着用管理責任者を選任したか
リスクアセスメント対象物を扱う事業場では規模を問わず化学物質管理者の選任義務があります。有機溶剤作業主任者とは別制度です(兼任可)。保護具でばく露低減を図る印刷現場では、保護具着用管理責任者もほぼ確実に必要です。化学物質管理者の選任義務・要件の詳細はこちら。
□ 10. リスト更新に追従する担当と時期を決めているか
2027年4月に151物質、2028年4月に36物質の追加が公布済みです(追加分の中身)。あわせて、現行リストを正しく引けているかも点検してください。印刷業なら湿し水のIPAが例で、収載名「プロピルアルコール」として現行から義務対象ですが、慣用名では一覧に出ません(IPAの規制まとめ)。「毎年4月に台帳とリストの差分を照合する」のように、担当と時期を決めて仕組みにしてください。
全部○にする近道
1〜4(台帳と該否確認)は、SDSさえ揃えば機械的に進む部分です。SDScanの無料診断は、SDSのPDFをアップするだけで成分×CAS×裾切値の照合を自動で行い、🔴🟡🟢で一覧します。台帳づくりの下敷きにどうぞ。
PDFをドラッグ&ドロップするだけ。登録不要で試せます(無料は月3件まで)。
自社で判断しづらいSDSは、先行期間(10月31日まで)は3製品まで無料でこちらで確認します。info@sdscan.jpにPDFを添付してお送りください(PDF化がむずかしい場合は製品名を一言でも構いません)。この確認は判定と同じ情報提供であり、法令適合の保証や法的助言ではありません。
よくある質問
Q. UVインキに切り替えれば、化学物質管理は不要になりますか? A. 不要にはなりません。アクリレート系モノマーは皮膚感作性が強く、洗浄剤・湿し水・接着剤も残ります。
Q. 湿し水はほとんど水なので、対象外と考えていいですか? A. 原液(エッチ液)側の確認が必要です。IPAは収載名「プロピルアルコール」として現行からSDS・リスクアセスメント義務の対象です(有機則でも従来から規制対象)。
Q. 有機溶剤作業主任者がいれば、化学物質管理者は不要ですか? A. 別制度のため、それぞれ必要です。兼任は可能です。
まとめ
- リストにない物質も含めて自社で把握するのが自律的管理。特別規則の遵守だけでは足りない
- 漏れるのはインキ本体より洗浄剤・湿し水・製本接着剤
- 台帳×最新SDS×CAS照合×記録が土台。その上にリスクアセスメントと体制(管理者2種)
- 湿し水のIPAは収載名「プロピルアルコール」として現行から対象——慣用名では一覧に出ない。リスト追従の仕組みまで作って「対応済み」
参考(一次情報)
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」:表示・通知対象物質の一覧・検索
- 厚生労働省:CREATE-SIMPLE(リスクアセスメント支援ツール)
※本記事は情報提供であり、法令適合を保証するものではありません。最終判断は貴社の化学物質管理者または有資格の専門家にご確認ください。
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台帳を作ってもらう →PDFが手元にないときは、SDSの3項の成分名・CAS番号を貼るだけの照合(送信なし)でも同じ判定が出ます。