化学物質リスクアセスメントの記録——何を書いて何年保存?
リスクアセスメントをCREATE-SIMPLEなどで実施したあと、「で、この結果はどこに何年残せばいいのか?」で手が止まる——記録・保存期間の疑問は、実施そのものの次に多いつまずきです。
結論を先に:リスクアセスメントは「実施」だけでは終わりません。記録の作成・保存・労働者への周知までが義務です(労働安全衛生規則第34条の2の8・2023年4月1日施行)。 記録する事項は4つ、保存期間は「一律3年」ではなく条件付き。順に整理します。
記録する事項は4つ(法定)
条文が定める記録事項は次の4つです。
- 対象物の名称 — 製品名だけでなく、該当した成分名・CAS番号まで書くと、リスト改正時の照合が楽になります(SDS第3項の読み方)
- 業務の内容 — どの作業場で・何の作業で・どのくらいの頻度で扱うか
- リスクアセスメントの結果 — 用いた方法(CREATE-SIMPLE等)とリスクレベル・判定
- 講ずる措置の内容 — 結果に基づいて実施する低減措置(換気・作業方法の改善・保護具など)と実施状況
様式は自由です。法定様式はなく、この4事項が残っていればExcelでも紙でも構いません。
保存期間:「一律3年」ではない
条文の書き方は少し独特です。
記録を作成し、次にリスクアセスメントを行うまでの期間(リスクアセスメントを行った日から起算して3年以内に当該対象物についてリスクアセスメントを行ったときは、3年間)保存する
つまり——
| ケース | 保存期間 |
|---|---|
| 3年以内に次のリスクアセスメントを実施 | 3年間 |
| 次の実施が3年より先(または未実施) | 次に行うまでずっと |
「3年経ったから捨ててよい」ではなく、**「次をやるまで捨てられない」**が正確な理解です。実務上は「3年以内サイクル+対象リスト改正や作業変更のタイミングで再実施」の運用にして、記録表に次回予定日を書いておくのが確実です(リスクアセスメントの最小手順)。
見落とされやすい義務:労働者への「周知」
記録は保存するだけでは足りません。対象物を扱う労働者への周知までが同じ条文の義務です。方法は次の3つのいずれか。
- 各作業場の見やすい場所に常時掲示・備え付け
- 書面を交付
- 電子ファイルに記録し、かつ各作業場に労働者が常時確認できる機器を設置
注意したいのは3番です。「共有フォルダに置いてある」だけでは、現場に閲覧できる端末がなければ要件を満たさない可能性があります。現場にPCやタブレットがない事業場では、掲示か書面交付が確実です。
記録表テンプレート(Excel・無料)
法定4事項+実務で必要な列(実施日・周知方法/周知日・次回実施予定・記録者)をまとめた記録表を配布します。記入例と、下で説明する保存期間の早見表も同梱しています。
📥 リスクアセスメント記録表テンプレートをダウンロード(Excel)
無料診断・貼り付け照合の結果画面と有料プランの台帳からは、この記録表の列に製品名・該当成分・判定を入れた下書きCSVをダウンロードできます(業務の内容・結果・措置は現場で記入)。
SDS管理台帳と品番・成分をそろえておくと、「台帳で該否を管理 → 該当品はリスクアセスメント → 結果を記録表へ」が一本の流れでつながります。
混同注意:3年と30年が混在する「保存期間の全体マップ」
化学物質管理の記録義務は、実はリスクアセスメント記録だけではありません。別の条文で、別の保存期間が定められた記録があり、ここが最も混同されやすいポイントです。
| 記録 | 根拠(安衛則) | 保存期間 |
|---|---|---|
| リスクアセスメント結果の記録(本記事) | 34条の2の8 | 次回実施まで(3年以内に次を行えば3年) |
| 措置状況・ばく露状況等の年次記録 — 1年以内ごとに1回、定期に作成 | 577条の2 第11項 | 3年。ただしがん原性物質のばく露状況の記録と、従事労働者の氏名・作業概要等の記録は30年 |
| リスクアセスメント対象物健康診断の個人票 | 577条の2 第5項 | 5年(がん原性物質は30年) |
ポイントは2つあります。
- リスクアセスメントの記録とは別に、「講じた措置の状況・労働者のばく露の状況」等を1年以内ごとに記録する義務があります(意見聴取の状況も対象。一部は労働者への周知も必要)
- がん原性物質(厚生労働大臣が定めるもの)を扱う場合、ばく露状況・作業記録の保存が30年に跳ね上がります。トルエンやキシレンを含む製品を扱う事業場は、自社の対象物質ががん原性物質に該当するかの確認まで含めて体制を作る必要があります
この年次記録・健診の管理も化学物質管理者の職務の範囲です。
いつ「次のリスクアセスメント」をやるか
再実施が必要になる典型的なタイミングは次の通りです。
- 対象物質リストの改正——義務対象は毎年拡大しており、2027年4月に151物質・2028年4月に36物質の追加が公布済みです。これまで対象外だった製品が対象になれば、その製品のリスクアセスメントが新たに必要になります
- 作業方法・設備・取扱量の変更
- SDSの改訂——成分や有害性情報が変わったとき
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よくある質問
Q. 記録は義務? A. 義務です(2023年4月施行・安衛則34条の2の8)。作成・保存に加えて労働者への周知まで求められます。
Q. 保存期間は? A. 次にリスクアセスメントを行うまで。3年以内に次を行った場合は3年間です。
Q. 様式は決まっている? A. 法定様式はありません。4事項が残っていれば形式は自由です(本記事のテンプレートが使えます)。
Q. 過去にやった分の記録がない場合は? A. さかのぼって作り直すことより、直近の実施分から記録を残す体制を作ることが先決です。次の実施時に本記事の記録表で残し始めてください。
まとめ
- リスクアセスメントは実施・記録・保存・周知までワンセットの義務(安衛則34条の2の8・2023年4月〜)
- 記録するのは4事項:対象物の名称・業務の内容・結果・措置の内容。様式は自由
- 保存は**「次をやるまで」**(3年以内に次を行えば3年)——「3年経ったら捨ててよい」ではない
- 周知は掲示・書面交付・電子+現場閲覧機器のいずれか。共有フォルダに置くだけでは不足の可能性
- 別条文の年次記録(3年・がん原性は30年)、**健診個人票(5年・がん原性は30年)**と混同しない
参考(一次情報)
- e-Gov法令検索:労働安全衛生規則(第34条の2の8、第577条の2)
- 厚生労働省:化学物質による労働災害防止のための新たな規制
※本記事は情報提供であり、法令適合を保証するものではありません。記録・保存の運用の最終判断は、貴社の化学物質管理者・有資格の専門家、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。
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