化学物質リスクアセスメントのやり方【最小5ステップ】
「リスクアセスメントが義務らしい。でも何をどこまでやれば『やった』ことになるのか分からない」——中小の現場で一番多い止まり方です。
この記事は、最小限これだけ回っていれば形になるという手順を5ステップに絞って解説します。専門業者への依頼や実測は、必須ではありません。
誰が・いつやる義務か
リスクアセスメント対象物(ラベル表示・SDS交付義務と同じ物質リスト。現在約2,300物質、検索できる一覧はこちら)を製造・取り扱う事業場は、規模・業種を問わず実施義務があります(労働安全衛生法57条の3)。数人の町工場でも対象です。
実施が必要になるタイミングは:
- 対象物質を含む製品を新しく採用するとき・切り替えるとき
- 作業方法や手順を変えるとき
- 物質の危険有害性について新しい情報が出たとき
加えて実務上重要なのが、義務対象リスト自体が毎年のように追加されることです。2026年の大幅拡大や2027年4月の追加で新たに対象になった製品は、その時点で一度実施しておくと確実です。
実施を回す責任者が化学物質管理者です(選任も規模不問の義務)。
最小5ステップ
ステップ1:対象を特定する——ここが仕事の8割
自社の化学品を棚卸しし、どの製品が対象物質を含むかを絞り込みます。
この照合はSDS(PDF)をアップすれば自動化できます。該当成分が🔴🟡🟢で一覧になるので、対象製品の絞り込みがそのまま終わります。
PDFをドラッグ&ドロップするだけ。登録不要で試せます。
ステップ2:危険有害性の情報を集める
対象製品の最新版SDSを手元に揃えます(発行日が古ければ再交付を請求)。使うのは主に:
| SDSの項 | 情報 |
|---|---|
| 2項 | GHS分類(どんな有害性か) |
| 3項 | 成分・CAS番号・含有量 |
| 8項 | ばく露限界値・許容濃度、推奨保護具 |
ステップ3:リスクを見積もる
見積り方法は法令で一つに定められておらず、実測が必須なわけではありません。中小の現実解は、厚生労働省の無料ExcelツールCREATE-SIMPLEによる簡易推定です(使い方はこちら)。取扱量・作業時間・換気条件を入力すると、リスクレベルが判定されます。
リスクが高いまま判断がつかない場合に、作業環境測定や個人ばく露測定など実測の検討へ進みます。
ステップ4:低減措置を検討・実施する
リスクが高い作業には低減措置を検討します。優先順位が決まっています:
- 代替——有害性の低い物質・製品への切り替え(最優先)
- 工学的対策——局所排気・密閉化・換気の改善
- 管理的対策——作業手順の見直し・作業時間の短縮・教育
- 保護具——呼吸用保護具・保護手袋など(上の1〜3を尽くしたうえでの最後の砦)
「とりあえずマスク」から入るのは順序が逆、というのがこの制度の考え方です。なお有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則など特別規則の対象物質は、それらの規則の遵守が大前提で、リスクアセスメントはその上に乗ります。
ステップ5:記録して周知する
実施結果を記録し、**次のリスクアセスメントを行うまでの間(少なくとも3年)**保存します。記録する内容は、対象物質・実施日・見積り方法・結果・検討した低減措置。CREATE-SIMPLEの実施レポートを使えばそのまま記録になります。
最後に、結果を関係する労働者へ周知(掲示・回覧・朝礼での説明など)して1サイクル完了です。台帳に実施日と次回予定を記録しておくと、リスト更新への追従と一緒に管理できます。
よくある誤解3つ
- 「専門家に頼まないとできない」——簡易ツールによる自社実施が制度上想定されています。外部依頼が必要になるのは、高リスクが残って実測や専門的判断が要る場合です
- 「測定しないと意味がない」——見積り方法は複数認められており、簡易推定から始めるのが標準的な進め方です
- 「一度やれば終わり」——対象リストは毎年のように追加され、2027年4月にも大規模追加が控えています。製品が変わらなくてもリスト側の更新で対象になるため、台帳での毎年の差分照合とセットで回すものです
よくある質問
Q. やらないと罰則はありますか? A. 未実施そのものへの直接罰則はありませんが、法律上の義務で監督署の指導対象です。関連義務(管理者選任・周知・ばく露低減)と一体で運用されます。
Q. 品目が多くて回りません。 A. 台帳で対象を特定し、取扱量が多い・毎日使う・有害性が重い製品から優先順位をつけて進めれば大丈夫です。
Q. 決まった様式はありますか? A. 法定様式はありません。対象物質・実施日・方法・結果・措置が記録に残っていれば形式は自由です。
まとめ
- 対象物質を扱うなら規模不問で義務。トリガーは新規採用・手順変更・リスト追加
- 最小の型は特定→情報収集→見積り→低減措置→記録・周知の5ステップ
- 見積りはCREATE-SIMPLEで自社実施できる。実測は必須ではない
- 仕事の8割は「対象の特定」。SDSの照合は無料診断で自動化を
参考(一次情報)
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」:表示・通知対象物質の一覧・検索
- 厚生労働省:化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(リスクアセスメント指針)
※本記事は情報提供であり、法令適合を保証するものではありません。リスクアセスメントの実施内容の最終判断は、貴社の化学物質管理者または有資格の専門家にご確認ください。