塩素化パラフィンはSDS義務対象か——炭素数10〜13は現行から、14〜17は2027年4月1日から(公布済み)
切削油の缶に「塩素系」と書かれている——重切削やタッピングの現場では、珍しくない表示です。その正体が塩素化パラフィンなら、これは化学物質規制の話になります。
ただし、該否は「塩素化パラフィンかどうか」では決まりません。決めるのは炭素数です。
労働安全衛生法のラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの義務対象物質一覧には、この物質が炭素数の範囲を区切って2行、別々に収載されています。炭素数10〜13は現行から対象。炭素数14〜17は2027年(令和9年)4月1日から追加されます。根拠は労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(令和7年政令第35号・令和7年2月19日公布)ほかで、すでに公布済み。収載名も裾切値も確定しています。施行日までは、この物質を理由とする労働安全衛生法上の義務は生じません。今は準備の期間です。
もうひとつ、検索でつまずく点を先に。現場や技術資料では「塩素化パラフィン」と呼ばれますが、**法令の収載名は「塩化パラフィン」「塩化直鎖パラフィン」**です。一覧を「塩素化パラフィン」で名称検索しても、当たりません。
塩素化パラフィンを含む製品のSDS(書類そのもの)をお探しの方へ:切削油・可塑剤・難燃剤など製品のSDSは、購入先(販売店・商社・メーカー)に品番で請求するのが最短です(請求文テンプレ付きの入手方法)。単一物質としての参考資料は、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」のモデルSDS(塩化パラフィン(炭素数10〜13)・塩化直鎖パラフィン(炭素数14〜17))が公開されています(製品ごとのSDSの代わりにはなりません)。以下は、そのSDSを受け取った側の「いつから義務か」の整理です。
該否は炭素数で決まる
一覧の2行を並べます。
| 収載名 | CAS RN | SDS交付等に係る裾切値 | ラベル表示に係る裾切値 | 状況 |
|---|---|---|---|---|
| 塩化パラフィン(炭素数が10から13までのもの及びその混合物に限る。) | 85535-84-8 | 0.1% | 1% | 2026年4月1日追加(*5)=現行から対象 |
| 塩化直鎖パラフィン(炭素数が14から17までのもの及びその混合物に限る。) | 85535-85-9 | 0.1% | 0.3% | 2027年4月1日追加(*6) |
備考の「*5」「*6」は厚生労働省の一覧の脚注です。*3は令和7年3月31日以前から対象だった物質、*4は令和7年4月1日追加、*5は令和8年4月1日追加、*6は令和9年4月1日追加、*7は令和10年4月1日追加を指します。
読みどころは3つあります。
- 収載名が違う。炭素数10〜13は「塩化パラフィン」、炭素数14〜17は「塩化直鎖パラフィン」。「塩化パラフィン」だけで名称検索すると、後者の行を落とします。
- CAS番号も別。85535-84-8 と 85535-85-9。「85535-」までが共通で、末尾だけが違います。よく似た番号なので、台帳への転記時に取り違えが起きやすいところです。
- 裾切値は列で違う。SDS交付等に係る裾切値はどちらも0.1%ですが、ラベル表示に係る裾切値は炭素数10〜13が1%、炭素数14〜17が0.3%。一覧を引くときは目的の列を見てください。
この2行は、台帳では別の物質として持ってください。収載名もCAS番号も裾切値の一部も違ううえ、義務が始まる日が1年ずれています。「塩素化パラフィン」という1行にまとめてしまうと、2027年4月の再照合のときに、その行がすでに対象なのか、これから対象になるのかを見分けられなくなります。
炭素数18以上と、名前の似た別物質
炭素数18以上の塩素化パラフィン(長鎖グレード)は、現行の一覧にも、2027年・2028年の追加一覧にも、収載名としては載っていません。ただし「うちは長鎖だと聞いている」は確認になりません。SDSの記載と供給者の回答で、炭素数の範囲を文書として押さえてください。
なお名前の似た「固形パラフィン」(CAS 8002-74-2・SDS交付等に係る裾切値1%・以前から収載)は塩素化していないパラフィンワックスで、まったく別の物質です。台帳で混ぜないでください。
SDSではこう見える——3つの落とし穴
該否の判断は**物質名(収載名)**で行い、CAS番号は参考です(一覧の脚注*1)。ところが収載名には炭素数の範囲が入っているのに、SDSの3項にはそれが書かれていないことがあります。
まずどの製品を見に行くか
塩素化パラフィンは、次のような用途で使われることがあります。
- 不水溶性切削油・研削油の極圧添加剤(重切削、タッピング、ブローチ加工など負荷の高い加工)
- 塩化ビニル樹脂等の可塑剤兼難燃剤
- 塗料・シーラント
- 皮革の加脂剤
塩素フリー品への切替は進んでいますが、今も使われることがある成分です。使用の有無は用途名では決まりません。製品ごとのSDSの3項で確認してください。切削油・グリス全体の棚卸し手順は切削油・グリスのSDS該否にまとめており、本記事はそこで「極圧添加剤(塩素系パラフィン等)」と触れた部分の深掘りにあたります。
落とし穴1:「塩素化パラフィン」とだけ書かれている
炭素数の記載がなければ、その行だけでは該否を決められません。炭素数10〜13なら現行から対象、14〜17なら2027年4月1日から、18以上なら一覧に収載名がない——結論が3方向に分かれます。
落とし穴2:総称のCAS番号で書かれている
塩素化パラフィン全般を指すCAS番号(63449-39-8など)が記載されていることがあります。この番号は一覧の2行のどちらとも一致しません。総称のCASは、炭素数の範囲を特定する情報になりません。
落とし穴3:塩素含有率の数字で判断してしまう
SDSに「塩素含有率50%」などと書かれていると、その数字で判定したくなります。しかし労働安全衛生法の一覧の収載名に、塩素含有率の限定はありません。塩素含有率が効くのは後述の化審法の側です。制度を取り違えると、判定が逆になります。
いずれの場合も、供給者への照会が最短です。
貴社製品に含まれる塩素化パラフィンについて、炭素数の範囲(10〜13/14〜17/18以上)と含有量をご教示ください。労働安全衛生法の表示・通知対象物質一覧の該否確認のためです(炭素数14〜17のものは令和9年4月1日施行分に収載されています)。
施行日と根拠を添えると、回答が具体的になります。成分名が開示されない場合でも、義務対象物質を裾切値以上含むかどうかの確認は依頼できます。
何が義務になるのか
義務対象物質を裾切値以上含む製剤には、次の3つがかかります。
- ラベル表示(労働安全衛生法第57条)
- SDS交付(第57条の2)
- リスクアセスメント(第57条の3)
判定の単位は成分で、混合物はSDS交付等に係る裾切値以上を含有する製剤が対象です。塩素化パラフィンのSDS交付等に係る裾切値は、炭素数10〜13・14〜17ともに0.1%。極圧添加剤は不水溶性切削油に数%から十数%の水準で配合されることがある成分ですから、「微量だから外れる」と言い切れる数字ではありません。
SDSのどこを読むかは3項の読み方に整理しています。
切削油は、一度決めた銘柄を10年使い続けることが珍しくない材料です。製品の側が変わらないので、確認も一度で終わったつもりになります。しかし変わるのは一覧の側です。塩素化パラフィンはその典型で、同じ物質でありながら、炭素数の範囲によって義務が始まる日が1年ずれています。「以前調べたときは何も出なかった」という記憶は、いつのリストで調べたかとセットでなければ使えません。
化審法との関係——同じ物質、別の物差し
塩素化パラフィンは、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)にも登場します。ただし切り取り方が違います。
化審法施行令の別表第一・第三十二号に、第一種特定化学物質として次の記載があります。
ポリ塩化直鎖パラフィン(炭素数が十から十三までのものであつて、塩素の含有量が全重量の四十八パーセントを超えるものに限る。)
さらに同施行令の第七条の表・第十六号では、この物質が使用されている製品のうち輸入が禁止されるものとして、次が掲げられています。
- 潤滑油、切削油及び作動油
- 生地に防炎性能を与えるための調製添加剤
- 樹脂用又はゴム用の可塑剤
- 塗料(防水性かつ難燃性のものに限る。)
- 接着剤及びシーリング用の充塡料
- 皮革用の加脂剤
切削油が名指しで入っています。 金属加工の現場に直接効く条文です。
2つの制度の違いを整理します。
| 観点 | 労働安全衛生法(ラベル・SDS・リスクアセスメント) | 化審法(第一種特定化学物質) |
|---|---|---|
| 炭素数 | 10〜13(現行)/14〜17(2027年4月1日〜) | 10〜13のみ |
| 塩素含有率 | 限定なし | 全重量の48%を超えるものに限る |
| 制度の性格 | 職場での情報伝達とばく露管理 | 製造・輸入等に関する規制 |
つまり、炭素数14〜17(中鎖)は化審法の第一種特定化学物質ではありませんが、2027年4月1日からは労働安全衛生法のSDS交付等の義務対象になります。「化審法で引っかからないから、こちらも関係ない」という読み方はできません。逆も同じで、両方を見る必要があります。
実務では、この違いを供給者への1回の照会にまとめられます。炭素数の範囲と塩素含有率を同時に聞いておけば、労働安全衛生法の該否に必要な情報と、化審法の条件に当たるかどうかの手がかりが、一度の往復で揃います。輸入品の油剤を使っている場合はとくに、聞き直しの手間が減ります。
同じ2027年追加で、切削油・加工液に関係しうる成分
2027年4月1日の追加は151物質です。塩化直鎖パラフィン以外にも、切削油や水溶性加工液の配合成分として使われることがある物質が含まれます。
| 収載名 | CAS RN | SDS交付等に係る裾切値 | 使われることがある用途 |
|---|---|---|---|
| アルキル(ベンジル)(ジメチル)アンモニウム=クロリド(アルキル基の炭素数が12から16までのもの及びその混合物に限る。) | 68424-85-1 ほか(122-18-9/139-07-1/139-08-2/85409-22-9) | 1% | 塩化ベンザルコニウム。水溶性加工液の防腐・防菌剤 |
| ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が9から11までのもの及びその混合物に限る。) | 68439-46-3 | 1% | 乳化剤・界面活性剤 |
| ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が16から18までのもの及び炭素数が18かつ不飽和のもの並びにその混合物に限る。) | 68920-66-1 | 1% | 乳化剤・界面活性剤 |
| エトキシ化獣脂アルキルアミン | 61791-26-2 | 0.1% | 乳化剤・防錆剤 |
| アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル | 103-23-1 | 0.1% | 合成エステル系の基油・可塑剤 |
この表でも、収載名に炭素数やアルキル基の範囲が並びます。2027年追加のリストは、炭素数で区切られた収載名が多いのが特徴です。SDSの3項が「界面活性剤」「防腐剤」のような総称表記のままだと、そこで照合が止まります。
自社で使っているかどうかは用途名では決まりません。追加の全体像は2027年・2028年の追加まとめに整理しています。
今やること——3ステップ
ステップ1:SDSの3項で炭素数とCAS番号を確認する
不水溶性切削油・研削油から着手します。「3. 組成及び成分情報」で塩素化パラフィンに当たる成分名を探し、炭素数の範囲・CAS番号・含有量の3点を拾います。炭素数が書かれていなければ、その品番をその場で供給者への問い合わせリストに入れてください。
手元の成分は物質一覧から引けます(公布済みの追加分は「2027年4月追加」で絞り込み)。PDFを外部に上げたくない場合は成分の貼り付け照合を。3項をテキストで貼るだけで、PDF不要・登録不要・送信なしで照合でき、公布済みで未施行の追加分は🟡で予告されます。
ステップ2:台帳に版と日付を残す
該当ありも該当なしも、確認日と参照した一覧の施行日を添えて記録します。塩素化パラフィンは行が2つあるので、台帳には「C10〜13」「C14〜17」「炭素数不明・供給者確認中」を区別して書いてください。「不明」を空欄で済ませると、施行時にもう一度全部やり直すことになります(台帳テンプレート)。
ステップ3:2027年4月の施行前に再照合する
炭素数14〜17の行は公布済みで確定しているので、再照合の担当と時期を先に決めます。ステップ2の台帳があれば、施行時の作業は差分確認だけで済みます。該当した製品はリスクアセスメントの記録まで進みます。加工時のオイルミストの吸入と、皮膚接触が主なばく露経路になる材料です。
この記事の例で、照合を試す
塩素系極圧添加剤入り切削油の例を入れてあります。「照合する」を押すと、この場で対象物質一覧と裾切値に照合して🔴🟡🟢を返します。自社のSDSの「3. 組成及び成分情報」に貼り替えれば、そのまま自社製品の確認になります。送信・保存はありません。
1行に1成分(成分名・CAS番号・含有率のどれでも)。入力内容はサーバーに送信されず、このページの中だけで照合します。
一覧が改正されたら、再チェックの案内をメールで受け取る(無料)
公布済みの2027年4月1日・2028年4月1日の追加は、それぞれ施行の前に「いま照合し直す時期です」と追加分の一覧をお送りします。改正の公布など重要な動きがあったときにもお知らせします。登録はメールアドレスだけで、費用はかかりません。
PDFをドラッグ&ドロップするだけ。登録不要で試せます(無料は月3件まで)。
自社で判断しづらいSDSは、先行期間(10月31日まで)は3製品まで無料でこちらで確認します。info@sdscan.jpにPDFを添付してお送りください(PDF化がむずかしい場合は製品名を一言でも構いません)。この確認は判定と同じ情報提供であり、法令適合の保証や法的助言ではありません。
よくある質問
Q. 塩素フリーの切削油に切り替えました。関係ありませんか? A. 切替が完了していれば、その製品について塩素化パラフィンを理由とする該否は生じません。ただし、旧銘柄の在庫や別ラインの油剤が残っていないか、切替後の製品が硫黄系・リン系の極圧添加剤や防腐剤など別の成分で対象にならないか、この2点は残ります。判定は製品ごとのSDSの3項で行い、塩素フリーを掲げる製品でも成分表と供給者の回答で裏を取ってください。
Q. SDSに「塩素化パラフィン」とだけ書かれていて、炭素数がありません。 A. その行だけでは該否を決められません。収載名が炭素数の範囲で区切られているためです。供給者に炭素数の範囲(10〜13/14〜17/18以上)と含有量を照会してください。総称のCAS番号(63449-39-8など)が書かれている場合も同じで、この番号は一覧の2行のどちらとも一致しません。
Q. 塩素含有率が低ければ、義務の対象から外れますか? A. 労働安全衛生法の一覧の収載名に、塩素含有率の限定はありません。炭素数の範囲と、SDS交付等に係る裾切値以上の含有かどうかで判定します。塩素含有量48%超という限定は化審法の第一種特定化学物質の側の条件で、別の制度の話です。
Q. 化審法で輸入が禁止されているのに、なぜ安衛法の一覧にも載るのですか? A. 別の制度だからです。化審法は製造・輸入等に関する規制、労働安全衛生法のラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントは職場での情報伝達とばく露管理の制度です。対象の切り取り方も違うため、両方を見ます。
まとめ
- 塩素化パラフィンの該否は炭素数で分かれる。労働安全衛生法の一覧には、炭素数の範囲を区切った収載名が2行ある
- 炭素数10〜13(収載名「塩化パラフィン」・CAS 85535-84-8)は現行から対象。SDS交付等に係る裾切値0.1%、ラベル表示に係る裾切値1%
- 炭素数14〜17(収載名「塩化直鎖パラフィン」・CAS 85535-85-9)は2027年4月1日から追加(令和7年政令第35号・令和7年2月19日公布)。SDS交付等に係る裾切値0.1%、ラベル表示に係る裾切値0.3%。公布済みで確定しており、施行日までは義務は生じない
- 炭素数18以上は、現行の一覧にも2027年・2028年の追加一覧にも収載されていない。名前の似た固形パラフィン(8002-74-2)は塩素化していない別の物質
- 現場の呼び名は「塩素化パラフィン」でも、法令の収載名は「塩化パラフィン」「塩化直鎖パラフィン」。名称検索はここで外れる
- SDSに炭素数が無い、または総称のCAS番号しか無い場合は供給者に炭素数の範囲を照会する。労働安全衛生法の側は塩素含有率を問わない
- 化審法の第一種特定化学物質は炭素数10〜13かつ塩素含有量48%超に限定され、輸入が禁止される製品に潤滑油・切削油・作動油が掲げられている。別の制度なので両方を見る
- 同じ2027年4月1日の追加には、防腐・防菌剤、乳化剤、合成エステル系の基油など切削油や水溶性加工液に使われることがある成分も含まれる
同じ改正型の記事として、PFASの2028年4月追加もあわせてご覧ください。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付等の義務対象物質一覧」令和8年4月1日時点版(令和10年4月1日施行分まで含む統合版)——収載名・CAS RN・SDS交付等に係る裾切値・ラベル表示に係る裾切値、脚注*1および*3〜*7
- 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(令和7年政令第35号・令和7年2月19日公布)
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」:表示・通知対象物質の一覧・検索
- e-Gov法令検索:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令(別表第一・第三十二号/第七条の表・第十六号)
※本記事は情報提供であり、法令適合を保証するものではありません。施行日・収載名・裾切値は一次資料でご確認いただき、自社製品の該否の最終判断は、貴社の化学物質管理者または有資格の専門家にご確認ください。
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