灯油・ガソリン・軽油はSDS交付・リスクアセスメントの義務対象?——3つとも一覧に収載・裾切値0.1%・市販燃料の扱い
フォークリフトと発電機の燃料、冬の暖房、ボイラー、そして部品洗浄——燃料は工場のどこにでもありますが、「化学物質」として管理されていることはまれです。購買では燃料費、置き場は屋外タンクか携行缶、SDSは受け取った記憶がない。それでも労働安全衛生法の義務対象物質一覧には、灯油・ガソリン・軽油の3つとも収載されています。
本記事は労働安全衛生法のラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの義務を中心に、燃料の扱いを整理します。消防法の危険物としての扱いは別の制度です(消防法の危険物とSDS義務対象の違い)。
燃料のSDS(書類そのもの)をお探しの方へ:石油元売各社は、灯油・ガソリン・軽油のSDSを自社サイトで公開しています。仕入先の販売店に請求しても入手できます(請求文テンプレ付きの入手方法)。単一物質としての参考資料は、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の灯油のモデルSDSが公開されています(製品ごとのSDSの代わりにはなりません)。
結論:3つとも現行の義務対象。SDS交付等の裾切値は0.1%
厚生労働省の義務対象物質一覧(令和8年4月1日時点施行分)の該当行です。
| 収載名 | 英語名称 | CAS RN *1 | ラベル表示に係る裾切値 | SDS交付等に係る裾切値 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 灯油 | Kerosene | 8008-20-6 | 1% | 0.1% | *3(令和7年3月31日以前から対象) |
| ガソリン | Gasoline | 8006-61-9 | 1%(加鉛ガソリンは100%) | 0.1% | *3 |
| 軽油 | Light oil; Gas oil | 64741-44-2 | 1% | 0.1% | *3 |
3つとも新しく追加された物質ではなく、以前から対象です。燃料そのものは含有率ほぼ100%なので、裾切値の議論はありません。燃料を業務で仕入れて扱っている事業場は、供給者からSDSを受け取り、リスクアセスメントを実施する対象になります。
PDFをドラッグ&ドロップするだけ。登録不要で試せます(無料は月3件まで)。
自社で判断しづらいSDSは、先行期間(10月31日まで)は3製品まで無料でこちらで確認します。info@sdscan.jpにPDFを添付してお送りください(PDF化がむずかしい場合は製品名を一言でも構いません)。この確認は判定と同じ情報提供であり、法令適合の保証や法的助言ではありません。
市販の燃料を買ってきた場合はどうなるか
ここが燃料に特有の論点です。ガソリンスタンドやホームセンターで売られている燃料は「主として一般消費者の生活の用に供するための製品」として、供給者のラベル表示・SDS交付の義務なく提供されています。
厚生労働省のQ&A(化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係) Q4-2)は、市販のガソリンを想定される用途の範囲内で使用する場合はリスクアセスメントの実施義務はないが、給油作業などには危険が伴うため努力義務として実施を推奨する、としています。
この考え方を当てはめると、扱いは購入先ではなく「製品の区分」と「用途」で分かれます。
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| スタンドで買った市販ガソリンを、車両・発電機の燃料として使う | 実施義務はない(努力義務として推奨) |
| 燃料店から業務用として配達・仕入れる灯油・軽油・ガソリン | 対象。供給者にはSDS交付義務があり、事業場はリスクアセスメントを実施 |
| 灯油やガソリンを、部品洗浄・脱脂など燃料以外の用途に使う | 想定される用途の範囲外。対象として扱うのが安全側 |
迷ったら、仕入先に業務用のSDSを求めてください。SDSが来る製品は、事業場側でも対象として扱います。
燃料ごとにかかる規制
同じ「燃料」でも、個別規則の該当は3つで違います。
| 規制 | 灯油 | ガソリン | 軽油 |
|---|---|---|---|
| 安衛法 ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメント | 対象 | 対象 | 対象 |
| 有機溶剤中毒予防規則(有機則) | 該当なし | 第3種有機溶剤(令別表第6の2 第48号・5%超含有で適用) | 該当なし |
| 皮膚等障害化学物質 | 皮膚吸収性有害物質(裾切値1%・2024年4月1日適用) | 指定なし | 指定なし |
| 濃度基準値 | 設定なし | 設定なし | 設定なし |
| 特定化学物質障害予防規則(特化則) | 該当なし | 該当なし(含有するベンゼンはJISで1体積%以下。SDSの3項で含有率を確認) | 該当なし |
| 消防法 | 第4類第2石油類 | 第4類第1石油類 | 第4類第2石油類 |
- ガソリンは有機則の対象です。 タンク内や屋内で5%超のガソリンを扱う作業(洗浄・払拭など)は、有機則の第3種有機溶剤業務として換気・作業主任者などの規定がかかります。給油だけの作業とは扱いが変わります
- 灯油は皮膚吸収性有害物質です。 灯油で部品を洗う、灯油をウエスに含ませて拭く——皮膚に触れるおそれのある作業では、不浸透性の保護手袋などの使用が義務です(安衛則第594条の2)。素手での灯油洗浄は、この規定に反します
- 軽油は個別規則の該当がありませんが、安衛法の義務対象物質であることは変わりません。ラベル・SDS・リスクアセスメントの対象です
現場でよくある取り扱いと確認点
- フォークリフト・発電機・草刈機の給油——着火源と静電気の管理が主なリスク。市販燃料を想定用途で使う場合でも、リスクアセスメントの実施は推奨されています
- 灯油による部品洗浄・脱脂——皮膚吸収性有害物質として保護手袋が義務。換気と、洗浄槽の周辺の火気管理。灯油の代わりに専用の洗浄剤へ替える場合は、その洗浄剤の該否を別途確認します
- 携行缶・ポリ容器への小分け——義務対象物質を移し替えて保管するときは、容器に「名称」と「人体に及ぼす作用」の表示が必要です(小分け容器の表示)
- 暖房・ボイラーの燃料——密閉した設備内で燃焼させるだけなら労働者のばく露は限られますが、給油・補充の作業は他と同じ扱いです
- 台帳への記載——燃料は化学物質の台帳から漏れやすい典型です。製品名・用途・使用場所・仕入先・SDSの版を台帳に載せてください
診断ツールではどう出るか
SDScanの無料診断・貼り付け照合は、成分名・CAS番号・含有率を現行の義務対象リストと照合し、有機則・皮膚等障害化学物質などの付随する規制も根拠に表示します。
| SDSの成分名 | CAS | 判定 | 判定根拠の表示 |
|---|---|---|---|
| 灯油 | 8008-20-6 | 🔴 | 「裾切値0.1%以上→対象」「皮膚吸収性有害物質(裾切値1%)→不浸透性の保護衣・保護手袋等の使用義務」 |
| ガソリン | 8006-61-9 | 🔴 | 「裾切値0.1%以上→対象」「有機則の対象物質(第3種有機溶剤・5%超含有で適用)」 |
| 軽油 | 68334-30-5(SDSの表記) | 🔴 | 一覧の収載名「軽油」に名称で一致。CAS番号が一覧(64741-44-2)と違っても名称で当てる |
| 軽油(CAS番号なし) | — | 🟡 | 「裾切値0.1%以上→対象」「CAS不明→要確認」 |
ガソリンのSDSは、3項にトルエン・キシレン・エタノール・ベンゼンなどの含有成分が併記されることがあります。下の例はその形で、燃料1つの中に有機則第2種・皮膚吸収性・特化則の成分が同居する様子がそのまま出ます。
この記事の例で、照合を試す
ガソリン(自動車燃料)の例を入れてあります。「照合する」を押すと、この場で対象物質一覧と裾切値に照合して🔴🟡🟢を返します。自社のSDSの「3. 組成及び成分情報」に貼り替えれば、そのまま自社製品の確認になります。送信・保存はありません。
1行に1成分(成分名・CAS番号・含有率のどれでも)。入力内容はサーバーに送信されず、このページの中だけで照合します。
よくある質問
Q. スタンドで携行缶に買ったガソリンを発電機に使っています。リスクアセスメントは必要ですか? A. 市販のガソリンを想定される用途の範囲内で使う場合は実施義務がなく、努力義務として推奨されています(厚労省Q&A Q4-2)。業務用として仕入れる燃料や、洗浄など本来の用途以外で使う場合は、対象として扱うのが安全側です。
Q. 灯油で部品を洗っています。何が義務になりますか? A. 皮膚吸収性有害物質として不浸透性の保護手袋などの使用が義務です。洗浄は燃料の本来の用途ではないので、リスクアセスメントの対象として扱い、換気・着火源の管理・記録まで行ってください。
Q. 軽油のSDSのCAS番号が一覧と違います。 A. 一覧は64741-44-2、SDSでは68334-30-5などで書かれることがあります。名称「軽油」で照合してください。
Q. 燃料もリスクアセスメントの記録が必要ですか? A. 実施した以上、記録の作成・保存と労働者への周知が義務です(記録の作り方)。まず燃料を扱う作業を台帳に載せるところからです。
まとめ
- 灯油(8008-20-6)・ガソリン(8006-61-9)・軽油(64741-44-2)は3つとも現行の義務対象。SDS交付等の裾切値は0.1%、ラベル表示は1%(加鉛ガソリンは100%)
- ガソリンは有機則の第3種有機溶剤、灯油は皮膚吸収性有害物質。軽油は個別規則の該当なし
- 市販燃料を想定用途で使う場合はリスクアセスメントの実施義務なし(推奨)。業務用の仕入れと、洗浄など用途外の使用は対象として扱う
- 携行缶・ポリ容器への小分けには名称と人体に及ぼす作用の表示が要る
- 軽油はSDSのCAS番号が一覧と違うことがある。名称で照合する
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参考(一次情報)
- 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付等の義務対象物質一覧」令和8年4月1日時点施行分(灯油・ガソリン・軽油:ラベル表示に係る裾切値1%・SDS交付等に係る裾切値0.1%・備考*3。加鉛ガソリンのラベル表示に係る裾切値は100%)
- 厚生労働省「皮膚等障害化学物質及び特別規則に基づく不浸透性の保護具等の使用義務物質リスト」令和7年1月24日時点(灯油:皮膚吸収性有害物質・裾切値1%)
- 厚生労働省「労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び濃度の値」令和7年10月8日現在の一覧
- 労働安全衛生法施行令 別表第6の2(有機溶剤)第48号 ガソリン/有機溶剤中毒予防規則
- 厚生労働省「化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)」Q4-1・Q4-2
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」:灯油のモデルSDS/表示・通知対象物質の一覧・検索
- 消防法 別表第一(第4類 第1石油類・第2石油類)
※本記事は情報提供であり、法令適合を保証するものではありません。収載名・裾切値・適用除外の範囲は一次資料でご確認いただき、自社製品の該否の最終判断は、貴社の化学物質管理者または有資格の専門家にご確認ください。