水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)はSDS交付・ラベル表示の義務対象?——裾切値1%・皮膚刺激性有害物質・アルカリ洗浄剤と劇物の線引き
アルカリ脱脂、食品工場のCIP洗浄、排水の中和、めっきの前処理、パイプ洗浄剤——水酸化ナトリウム(苛性ソーダ・CAS 1310-73-2)は「洗剤」「中和剤」の顔で現場に入ってくる成分です。そのため「洗剤だから」「薄めて使うから」「劇物ではない濃度だから」と、化学物質規制の確認から外れることがあります。
結論から言うと、水酸化ナトリウムは労働安全衛生法のラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの義務対象で、裾切値は1%。さらに皮膚刺激性有害物質に指定されているので、含有率1%以上の製剤を扱う作業では不浸透性の保護手袋などの使用が義務です。本記事は、この2つと、毒劇法の劇物(5%超)との線引きを整理します。
水酸化ナトリウムのSDS(書類そのもの)をお探しの方へ:製品のSDSは、購入先(販売店・商社・メーカー)に品番で請求するのが最短です(請求文テンプレ付きの入手方法)。単一物質としての参考資料は、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の水酸化ナトリウムのモデルSDSが公開されています(製品ごとのSDSの代わりにはなりません)。
結論:現行の義務対象。裾切値はラベル・SDSとも1%
厚生労働省の義務対象物質一覧(令和8年4月1日時点施行分)に、次の行があります。
| 一覧の項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 名称 | 水酸化ナトリウム |
| 英語名称 | Sodium hydroxide |
| CAS RN *1 | 1310-73-2 |
| ラベル表示に係る裾切値 | 1% |
| SDS交付等に係る裾切値 | 1% |
| 備考 | *3(令和7年3月31日以前から義務対象) |
水酸化カリウム(CAS 1310-58-3)も同じ条件で収載されています。SDSでは「苛性ソーダ」「カセイソーダ」「水酸化ナトリウム水溶液」「NaOH」などと書かれますが、CAS番号 1310-73-2 で照合すれば表記に関係なく当たります。
PDFをドラッグ&ドロップするだけ。登録不要で試せます(無料は月3件まで)。
自社で判断しづらいSDSは、先行期間(10月31日まで)は3製品まで無料でこちらで確認します。info@sdscan.jpにPDFを添付してお送りください(PDF化がむずかしい場合は製品名を一言でも構いません)。この確認は判定と同じ情報提供であり、法令適合の保証や法的助言ではありません。
皮膚刺激性有害物質:希釈液でも手袋は実務上ほぼ必須
水酸化ナトリウムは、厚生労働省の「皮膚等障害化学物質」のうち皮膚刺激性有害物質に指定されています(含有率1%以上の製剤・2024年4月1日適用)。該当する製剤を扱い、皮膚に触れるおそれのある作業では、不浸透性の保護衣・保護手袋・履物・保護眼鏡等の使用が義務です(安衛則第594条の2)。
モデルSDSの分類は次のとおりで、数字を見ると「薄い液なら素手でよい」とは言えないことが分かります。
| 項目 | 区分と根拠(モデルSDSより) |
|---|---|
| 皮膚腐食性・刺激性 | 区分1。5%水溶液で重度の壊死、0.5〜4%溶液でもヒトに皮膚刺激の報告。0.05%でpH 12 |
| 眼に対する重篤な損傷性 | 区分1。1.2〜2%以上の濃度で腐食性。失明に至った事故例の報告あり |
義務の線は「含有率1%以上の製剤を扱う作業」ですが、SDSの8項(ばく露防止及び保護措置)は希釈液でも手袋と保護眼鏡を指定しているのが普通です。義務の線と実務の線は分けて考えてください。
毒劇法の劇物との線引き
現場で混乱しやすいのが、毒物及び劇物取締法との関係です。同じ成分でも、制度ごとに濃度の線が違います。
| 製剤中の水酸化ナトリウム | 毒劇法 | 労働安全衛生法 |
|---|---|---|
| 5%を超える | 劇物(表示・保管・譲渡の手続き) | ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの対象、皮膚刺激性有害物質として保護具の使用義務 |
| 1%以上5%以下 | 劇物には当たらない | 対象(同上) |
| 1%未満 | 劇物には当たらない | この成分を理由とする義務はかからない(他の成分は別途確認) |
「劇物ではない濃度のアルカリ洗浄剤」は、安衛法では対象のまま、という点が見落としどころです。
製品別:どこに入っているか
| 製品 | 入り方の目安 | 労働安全衛生法での扱い |
|---|---|---|
| 苛性ソーダ(フレーク・液体48%) | ほぼ100%/48% | 対象。劇物でもある |
| アルカリ脱脂剤・工業用アルカリ洗浄剤 | 1〜10%(原液) | 対象。1%以上なら保護手袋の義務も |
| CIP洗浄剤(食品・飲料設備) | 数〜十数% | 対象。希釈して循環させる運用でも、原液の受け取りと調製作業は対象 |
| 排水の中和剤 | 20〜48% | 対象。劇物の保管管理と併せて |
| めっき・塗装の前処理(アルカリ脱脂浴) | 数% | 対象。加温浴のミストに注意 |
| 家庭用パイプ洗浄剤・家庭用洗剤 | 数% | 家庭用として販売される製品は適用除外の整理。業務用は対象 |
水酸化ナトリウムにかかっている規制(現在)
| 規制 | 水酸化ナトリウムの扱い |
|---|---|
| 安衛法 ラベル表示・SDS交付 | 対象(ラベル1%・SDS 1%) |
| 安衛法 リスクアセスメント | 対象(対象物質を扱う事業場は規模を問わず実施義務) |
| 皮膚等障害化学物質 | 皮膚刺激性有害物質(含有率1%以上・2024年4月1日適用)→不浸透性の保護具の使用義務 |
| 濃度基準値 | 設定なし(令和7年10月8日現在の一覧) |
| 有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則 | 該当なし |
| がん原性物質(作業記録等の30年保存) | 指定なし |
| 毒物及び劇物取締法 | 5%を超えて含有する製剤は劇物 |
| 消防法 | 該当なし(不燃性) |
現場で見るところ
- 手袋と保護眼鏡——1%以上の製剤を扱う作業は義務。希釈液でもSDSの8項に従う。耐アルカリの材質(ニトリル・ネオプレンなど)はSDSの指定で
- 希釈と調製——水に溶かすと発熱し、飛散します。水に薬剤を少しずつ入れる順序、換気、顔面の保護
- フレーク・粉体の投入——粉じんの吸入と、湿った皮膚への付着。加温浴・CIPのミストも吸入経路です
- 記録——実施日・作業・結果・措置を記録し、労働者に周知します(記録の作り方)。劇物の保管記録とは別の書類です
診断ツールではどう出るか
SDScanの無料診断・貼り付け照合は、成分名・CAS番号・含有率を現行の義務対象リストと照合し、皮膚等障害化学物質などの付随する規制も根拠に表示します。アルカリ脱脂剤の例では次のように出ます。
| SDSの成分名 | CAS | 判定 | 判定根拠の表示 |
|---|---|---|---|
| 水酸化ナトリウム | 1310-73-2 | 🔴 | 「裾切値1%以上→対象」「皮膚刺激性有害物質(裾切値1%)→不浸透性の保護衣・保護手袋等の使用義務」 |
| 炭酸ナトリウム | 497-19-8 | 🔴 | 「裾切値1%以上→対象」「皮膚等障害化学物質(眼に対する重篤な損傷性の区分のみ)→眼に対する保護具の使用」 |
| エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム | 64-02-8 | 🔴 | 「裾切値1%以上→対象」・2026年4月1日追加分 |
| けい酸ナトリウム | 1344-09-8 | 🟢 | 現行リストに一致する行なし |
| 水 | 7732-18-5 | 🟢 | 現行リストに一致する行なし |
アルカリ洗浄剤は「水酸化ナトリウムだけ見ればよい」製品ではありません。炭酸ナトリウムの眼の保護具、2026年4月に追加されたキレート剤(EDTA-4Na)のように、3項の全成分に別々の根拠が付くのが普通です。下の例で、そのまま照合できます。
この記事の例で、照合を試す
アルカリ脱脂剤(水酸化ナトリウム系)の例を入れてあります。「照合する」を押すと、この場で対象物質一覧と裾切値に照合して🔴🟡🟢を返します。自社のSDSの「3. 組成及び成分情報」に貼り替えれば、そのまま自社製品の確認になります。送信・保存はありません。
1行に1成分(成分名・CAS番号・含有率のどれでも)。入力内容はサーバーに送信されず、このページの中だけで照合します。
よくある質問
Q. 水で薄めて0.5%で使っています。義務はかかりますか? A. 該否は受け取る製品(原液)の含有率で決まります。原液が1%以上なら対象で、保護具の義務も1%以上の製剤を扱う作業にかかります。薄めた液でも0.5〜4%で皮膚刺激の報告があるので、8項に沿って手袋と保護眼鏡を使うのが実務です。
Q. 劇物ではない(5%以下の)アルカリ洗浄剤でも対象ですか? A. 対象です。劇物の線は5%超、安衛法の裾切値は1%です。
Q. 水酸化カリウムも同じ扱いですか? A. 同じです。一覧に収載(裾切値1%)で、皮膚刺激性有害物質の指定もあります。
Q. 家庭用のパイプ洗浄剤を工場で使っています。 A. 家庭用として販売される製品は適用除外の整理で、業務用は入手先を問わず対象です。常用するなら業務用に切り替えてSDSを受け取るのが安全側です(厚労省Q&A Q4-1)。
まとめ
- 水酸化ナトリウム(1310-73-2)は現行の義務対象。裾切値はラベル・SDSとも1%。水酸化カリウムも同じ
- 皮膚刺激性有害物質。1%以上の製剤を扱う作業は不浸透性の保護手袋等が義務。希釈液でもSDSの8項に従う
- 毒劇法の劇物は5%超、安衛法は1%以上。「劇物ではない洗浄剤」も安衛法では対象
- アルカリ洗浄剤は成分ごとに根拠が違う(炭酸ナトリウム=眼の保護具、EDTA-4Na=2026年追加)。3項の全成分で見る
整理したいSDSは何件ありますか?
1件はSDSのPDF 1ファイルです。PDF内のページ数とは別に数えます。
4件以上を自分で管理する
有料は1回10ファイルまで一括診断。月間上限はライト300ページ、スタンダード1,000ページです。台帳に保存し、改正のたびに自動で再照合します。
ライトは年間 ¥30,000/月額 ¥3,000。PDF内のページ数で利用量を数えます。
年間プランを見る →まとめて台帳を作ってもらう
SDSをまとめて送るだけ。該否・裾切値・根拠つきの台帳を3営業日で納品。SDS 50件まで ¥19,800〜、請求書は納品後。
50件・150件・300件のプラン。301件以上も個別見積で承ります。
台帳を作ってもらう →PDFが手元にないときは、SDSの3項の成分名・CAS番号を貼るだけの照合(送信なし)でも同じ判定が出ます。
参考(一次情報)
- 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付等の義務対象物質一覧」令和8年4月1日時点施行分(水酸化ナトリウム・水酸化カリウム:ラベル表示に係る裾切値1%・SDS交付等に係る裾切値1%・備考*3)
- 厚生労働省「皮膚等障害化学物質及び特別規則に基づく不浸透性の保護具等の使用義務物質リスト」令和7年1月24日時点(水酸化ナトリウム・水酸化カリウム:皮膚刺激性有害物質・裾切値1%)
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」:水酸化ナトリウムのモデルSDS(皮膚腐食性・刺激性 区分1/眼に対する重篤な損傷性 区分1)
- 厚生労働省「労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び濃度の値」令和7年10月8日現在の一覧
- 毒物及び劇物取締法・毒物及び劇物指定令(水酸化ナトリウム:5%以下を含有するものを除き劇物)
- 厚生労働省「化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)」Q4-1
※本記事は情報提供であり、法令適合を保証するものではありません。収載名・裾切値・適用除外の範囲は一次資料でご確認いただき、自社製品の該否の最終判断は、貴社の化学物質管理者または有資格の専門家にご確認ください。