エタノール(アルコール)はSDS交付・ラベル表示の義務対象?——一覧に収載済み・裾切値0.1%、有機則の有機溶剤ではない
洗浄・脱脂・消毒・インキや塗料の溶剤、燃料——エタノール(エチルアルコール・CAS 64-17-5)は、工場で最も身近な化学物質の一つです。「お酒と同じ成分」「有機則の対象ではない」という理由で、化学物質規制の確認から外れていることが少なくありません。
結論から言うと、エタノールは労働安全衛生法のラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの義務対象です。本記事は労働安全衛生法の義務を中心に、製品別の扱いと確認手順を整理します。
結論:現行の義務対象。裾切値はラベル・SDSとも0.1%
厚生労働省の義務対象物質一覧(令和8年4月1日時点施行分)に、次の行があります。
| 一覧の項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 名称 | エタノール |
| 英語名称 | Ethanol |
| CAS RN *1 | 64-17-5 |
| ラベル表示に係る裾切値 | 0.1% |
| SDS交付等に係る裾切値 | 0.1% |
| 備考 | *3(令和7年3月31日以前から義務対象) |
新しく追加された物質ではなく、以前から対象です。SDSの15項(適用法令)に「労働安全衛生法」の記載があるかどうかにかかわらず、成分としてエタノールが0.1%以上入っていれば、供給者にはラベル表示・SDS交付の義務、事業場にはリスクアセスメントの義務がかかります。
PDFをドラッグ&ドロップするだけ。登録不要で試せます(無料は月3件まで)。
自社で判断しづらいSDSは、先行期間(10月31日まで)は3製品まで無料でこちらで確認します。info@sdscan.jpにPDFを添付してお送りください(PDF化がむずかしい場合は製品名を一言でも構いません)。この確認は判定と同じ情報提供であり、法令適合の保証や法的助言ではありません。
製品別:どのエタノールが対象か
「エタノール」と一口に言っても、製品の区分で扱いが変わります。
| 製品 | 労働安全衛生法での扱い |
|---|---|
| 工業用エタノール(99.5%・95%など) | 対象。ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントすべて |
| 変性アルコール(IPA・MEKなどを添加した工業用) | 対象。変性剤(イソプロピルアルコール・メチルエチルケトン・メタノールなど)もそれぞれ義務対象物質 |
| 洗浄剤・脱脂剤・インキ・塗料などの配合成分 | エタノールが0.1%以上なら対象。他の成分も成分ごとに確認 |
| 消毒用エタノール(医薬品・医薬部外品として販売) | ラベル表示・SDS交付義務の適用除外として整理される製品。リスクアセスメントの実施義務からも除かれるが、業務で使うなら自主的な実施を厚労省が推奨 |
| 酒類(飲用) | 食品として一般消費者の生活の用に供する製品に当たり、対象から除かれる |
見落としやすいのは、同じ「エタノール76.9〜81.4vol%」でも、医薬品として売られている消毒用エタノールと、業務用の除菌・洗浄用アルコール製剤では扱いが違う点です。前者は適用除外の製品として整理され、後者は義務対象です。容器の表示(「第3類医薬品」「指定医薬部外品」か、「業務用」「工業用」か)で区分を確認してください。ホームセンターで買えるかどうかは判断基準になりません(厚労省Q&A Q4-1)。
エタノールにかかっている規制(現在)
| 規制 | エタノールの扱い |
|---|---|
| 安衛法 ラベル表示・SDS交付 | 対象(裾切値0.1%) |
| 安衛法 リスクアセスメント | 対象(対象物質を扱う事業場は規模を問わず実施義務) |
| 有機溶剤中毒予防規則(有機則) | 対象の有機溶剤(令別表第6の2)に含まれない(メタノール・イソプロピルアルコールは第2種有機溶剤) |
| 特定化学物質障害予防規則(特化則) | 該当なし |
| 濃度基準値 | 設定なし(令和7年10月8日現在の一覧) |
| 皮膚等障害化学物質 | 指定なし(令和7年1月24日時点の一覧) |
| 消防法 | 第4類アルコール類(エタノール含有量60%以上の製品など)として危険物に該当することがある |
「有機則に出てこないから安衛法でも対象ではない」という推測が、この物質でいちばん多い誤りです。有機則は令別表第6の2に定める有機溶剤だけを対象にした個別規則で、安衛法の義務対象物質一覧(約2,300物質)とは別のリストです。同じ「アルコール」でも、メタノール・イソプロピルアルコールは有機則の第2種有機溶剤に入り、エタノールは入りません(IPAの収載名と規制)。
裾切値0.1%の意味
裾切値は「この濃度以上なら義務がかかる」という下限です。エタノールは0.1%なので、混合物に少量入っているだけで対象になります。
- エタノール5%の水系洗浄剤 → 対象
- エタノール0.5%を溶剤として含むインキ → 対象
- エタノール0.05%(微量の残留) → 裾切値未満。この成分を理由とする義務はかからない
含有量が範囲表記(例:「1〜5%」)のときは上限側で裾切値と比べるのが安全側の読み方です。
リスクアセスメントで見るところ
エタノールの主な危険性は引火性です。リスクアセスメントでは、健康有害性だけでなく、静電気・火気・蒸気の滞留による火災・爆発のリスクも見積もります。
- **SDSの2項(危険有害性の要約)と8項(ばく露防止及び保護措置)**を読む。引火点・蒸気の重さ・推奨される保護具はここにあります
- 作業単位でばく露と着火源を洗い出す——拭き取り・噴霧・加温・密閉空間での使用は蒸気濃度が上がります
- 記録を残す——実施日・対象作業・結果・措置を記録し、労働者に周知します(記録の作り方)
濃度基準値は設定されていないため、屋内作業場では「ばく露を最小限にする」(安衛則第577条の2第1項)が求められます。数値目安が必要なら、SDSの8項やCREATE-SIMPLEで見積もります。
診断ツールではどう出るか
SDScanの無料診断・貼り付け照合は、成分名・CAS番号・含有率を現行の義務対象リストと照合します。変性アルコールの例では次のように出ます。
| SDSの成分名 | CAS | 判定 | 判定根拠の表示 |
|---|---|---|---|
| エタノール | 64-17-5 | 🔴 | 「裾切値0.1%以上→対象」 |
| イソプロピルアルコール | 67-63-0 | 🔴 | 収載名「プロピルアルコール」・「裾切値0.1%以上→対象」・有機則第2種・皮膚等障害化学物質 |
| メチルエチルケトン | 78-93-3 | 🔴 | 「裾切値1%以上→対象」・有機則第2種・皮膚吸収性有害物質 |
| 酢酸エチル | 141-78-6 | 🔴 | 「裾切値1%以上→対象」・有機則第2種 |
| 水 | 7732-18-5 | 🟢 | 現行リストに一致する行なし |
エタノール自体の根拠は裾切値だけですが、変性剤のほうに有機則・保護具の義務が付いてくるのが変性アルコールの特徴です。下の例で、そのまま照合できます。
この記事の例で、照合を試す
変性アルコール(工業用エタノール)の例を入れてあります。「照合する」を押すと、この場で対象物質一覧と裾切値に照合して🔴🟡🟢を返します。自社のSDSの「3. 組成及び成分情報」に貼り替えれば、そのまま自社製品の確認になります。送信・保存はありません。
1行に1成分(成分名・CAS番号・含有率のどれでも)。入力内容はサーバーに送信されず、このページの中だけで照合します。
よくある質問
Q. 消毒用エタノール(医薬品・医薬部外品)を工場で使っています。SDSは必要ですか? A. 医薬品・医薬部外品として販売されている製品は、ラベル表示・SDS交付義務の適用除外として整理され、リスクアセスメントの実施義務からも除かれています。ただし厚労省は業務で使うなら自主的な実施を勧めています。「工業用」「業務用」として販売されるエタノール製剤は義務対象です。
Q. 有機則の対象ではないので、リスクアセスメントも不要ですか? A. 不要にはなりません。有機則の該当と安衛法のリスクアセスメント義務は別立てで、エタノールは後者の対象です。
Q. エタノールが5%入った洗浄剤も対象ですか? A. 裾切値0.1%以上なので対象です。他の成分も含めて、SDSの3項で成分ごとに確認してください。
Q. 変性アルコールのSDSに「エタノール」と「変性剤」としか書いてありません。 A. 変性剤(イソプロピルアルコール・メチルエチルケトン・メタノールなど)はそれ自体が義務対象物質です。成分名・CAS番号・含有率のある最新版のSDSを購入先に請求してください(SDSの入手方法)。
まとめ
- エタノール(64-17-5)は現行のラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの義務対象。裾切値はラベル・SDSとも0.1%
- 有機則の有機溶剤には含まれないが、それは安衛法の義務とは別の話。メタノール・IPAは有機則の第2種
- 濃度基準値・皮膚等障害化学物質の指定はない(それぞれ令和7年10月8日・令和7年1月24日時点の一覧)
- 医薬品・医薬部外品の消毒用エタノールは適用除外として整理、業務用・工業用のエタノール製剤は対象。区分は容器の表示で確認
- 変性アルコールは、変性剤の側に有機則・保護具の義務が付く
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参考(一次情報)
- 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付等の義務対象物質一覧」令和8年4月1日時点施行分(エタノール:ラベル表示に係る裾切値0.1%・SDS交付等に係る裾切値0.1%・備考*3)
- 厚生労働省「労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び濃度の値」令和7年10月8日現在の一覧
- 厚生労働省「皮膚等障害化学物質及び特別規則に基づく不浸透性の保護具等の使用義務物質リスト」令和7年1月24日時点
- 厚生労働省「化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)」Q4-1・Q4-2(一般消費者の生活の用に供する製品の扱い)
- 有機溶剤中毒予防規則(労働安全衛生法施行令別表第6の2)
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」:表示・通知対象物質の一覧・検索
※本記事は情報提供であり、法令適合を保証するものではありません。収載名・裾切値・適用除外の範囲は一次資料でご確認いただき、自社製品の該否の最終判断は、貴社の化学物質管理者または有資格の専門家にご確認ください。